養育費未払い相談NAVI

養育費の基礎知識から未払いに関する体験談まで

養育費の未払いを強制執行で差押さえする方法

養育費の未払いを強制執行で差押さえする方法

強制執行とは

強制執行とは、相手が支払いに応じない場合に、債務名義に基づいて裁判所が相手側の財産を強制的に取り立てる法律上の制度のことを指します。

裁判所が差し押さえた財産をお金に換えて(換価)、債権者(申立人)に対して分配することが目的です。

一般的には、支払いを滞納している相手方の給与を差し押さえることで養育費に充当します。


債務名義

債務名義とは、債権者に裁判所の強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書のこと。

金銭の一定の金額の支払いを目的とし、執行文が付与された公正証書は、債務名義執行力を持ちます。


youikuhi-soudan.hatenablog.com




強制執行の対象

強制執行により差押さえできる対象には、不動産、動産、債権の3種類があります。


不動産 土地やそれに定着する建物のこと。
動産 不動産以外のすべての財産。現金・商品など。
債権 財産に関して、ある人が他のある人に対してある行為を請求しうる権利。

強制執行は、大きく不動産執行動産執行債権執行の3種類に分けられます。


不動産執行

不動産執行とは、債務者所有の不動産に対して行う強制執行のことを指します。(民事執行法第43条)

債務者が所有する不動産を売却して代金を債権者に配当する強制競売と、裁判所が選任する管理人がその不動産を管理し、収益を債権者に配当する強制管理の2種類があります。

どちらの方法で行うかは、申立人である債権者が選択することになります。


養育費の強制執行は、通常、給料などの金品の差し押さえが一般的ですが、法律上では不動産も対象となります。


動産執行

動産執行とは、動産を対象として執行官が行う強制執行手続です。(民事執行法第122条)

動産執行では、債務者が所有する骨董品、貴金属等の他、小切手や株券、有価証券等も対象となります。


ただし、差押禁止財産民事執行法131条)が定められているため、実際に差押さえできる範囲は限定されます。

差押禁止財産は、家具や家財、電化製品、衣服、現金(66万円まで)など日常生活を送る上で欠かすことができない動産が対象です。


このように、動産執行の対象は一部に限定されるため、債権回収手段としては、あまり効果が期待できないと言われています。

また、相手側が換価価値のある財産を所有していない場合は、差し押さえをすることが出来ません。


債権執行

債権執行は、債務者が第三者に対して持っている債権を強制執行の対象とします。(民事執行法第143条)

離婚した相手が養育費を支払ってくれない場合でも、第三者に対して債権を持っている可能性があります。


債権執行をする場合は、債務者本人ではなく、裁判所から第三債務者に債権差押命令が送達されます。

このように債権執行は、債務者の第三債務者に対する債権を対象とします。


第三債務者

ある債権関係の債務者に対してさらに債務を負う者のこと。


養育費の未払いによる給料の差押えの場合は、相手方に給料を支払っている会社・法人などが第三債務者に該当します。


ただし、債権執行は、差し押さえの対象が他人間の債権のため、場合によっては債権の特定が難しくなり、回収が困難になることも珍しくありません。


そのため、第三債務者の調査を行い、差押さえする財産の特定を行う必要があります。


強制執行の種類 対象
不動産執行 土地や建物など
動産執行 骨董品や貴金属
小切手や株券、有価証券など
現金(66万円まで)
債権執行 給与債権
売掛金債権など

養育費未払いの差押さえ対象

差押さえの対象は、金銭の支払いを目的とする債権(金銭債権)がメインです。具体的には、給料などを指します。


金銭債権

金銭債権とは、金銭の給付を目的とする債権のことを言います。

特殊な金銭債権として金種債権と呼ばれるものがあります。金種債権には、相対的金種債権と絶対的金種債権の2つがあります。


  • 相対的金種債権 … 一定額を特定の種類の通貨で給付することを目的とする債権のこと。
  • 絶対的金種債権 … 収集の目的などから特定の種類の金銭(骨董的・記念的貨幣)の給付を目的としている債権のこと。

養育費の未払いが発生した場合の差押さえの対象は、相手側の給料を指す場合が一般的です。

養育費の未払いによる給料の差押えの対象は、法律により給料の2分の1までと定められています。

この場合の給料は、税金や保険料などを控除した残額のことを指します。


また、支払期限の到来していない将来分の養育費についても差し押さえが認められています。


給料差押さえの事例

ここでは養育費の未払い総額が100万円の場合を例に説明をしていきます。

相手側の給与額が66万円を超えない場合と超える場合の違いは次の通りです。


毎月の手取り給与額が30万円の場合(66万円を超えない場合)

差押さえの対象は給料の2分の1までなので、ひと月に差押さえ出来る金額は15万円が上限となります。


差押さえた給料は、相手方の勤務先から支払われることになります。


つまり、養育費の未払い総額の100万円に達するまで、毎月、相手方の給料を支払っている会社等から申立人に対して支払われます。


毎月の手取り給与額が80万円の場合(66万円を超える場合)

手取りの給与額が66万円を超える場合は、給与額から33万円を控除した額まで差押えることが可能とされています。

たとえば、相手側の給料が80万円の場合、そこから33万円を引いた47万円までが差し押さえの対象となります。


差押えの範囲については少し複雑になるため、詳しくは弁護士に相談されることをおすすめします。



強制執行の注意点

公正証書で契約した内容が全て強制執行の対象になるわけではありません。

強制執行を行う上での注意点を把握しておきましょう。


注目ポイント

執行文付与の手続きが必要

公正証書を作成すれば、強制執行が可能になるわけではありません。

公正証書契約により強制執行をする場合は、執行文が付与されている債務名義が必要になります。


債務名義

差し押さえしたい相手に対して、公的に自分の債権の存在、範囲を証明した書類のこと。


公正証書を作成した公証役場執行文付与の手続きを行うことで債務名義を取得することができます。

公正証書の正本を発行してもらい、執行文の付与を依頼します。

執行文の付与には、手数料として1,700円が必要になります。


執行文付与の必要書類

  1. 印鑑登録証明書(3か月以内)と実印、または、自動車運転免許証と認印、若しくは顔写真付き住民基本台帳カード認印
  2. 証書作成時と名前(苗字)が変更していた場合、新しい戸籍1通
  3. 公正証書正本と「公正証書謄本等送達証明申請書」(B5)

この執行文付与という手続きを行うことで、はじめて強制執行が可能になります。


法的な手続に関して、理解が不十分で不安だという人は弁護士・司法書士などの法律の専門家に相談することをおすすめします。


送達

送達とは、相手方に公正証書の謄本等を郵送で送付し、書類の内容を了知させるための手続きです。

送達証明とは、相手方に債務名義を間違いなく送ったという事実を証明することを指し、その書類を送達証明書と言います。


強制執行は、執行文が付与された公正証書(強制執行認諾約款が付いているものに限る)の正本と送達証明書があれば行うことが出来ます。


強制執行認諾約款

強制執行認諾約款とは、公正証書に「契約に規定する金銭債務の支払を履行しないときは 直ちに強制執行に服する」という旨を認めた文言のこと。


強制執行を開始するためには、あらかじめ相手側に送達を行う必要があります。

相手側に債務名義の正本又は謄本が送達されていないと強制執行をすることができません。


送達手続を行った後、公証人が執行文を付与します。その後、強制執行手続に入ります。


送達には、特別送達交付送達補充送達差置送達の4種類があります。


特別送達 一般の郵便物とは異なった手続きで送達され、送達事実を差出人に証明する制度。
交付送達 送達を行う機関が送達の名宛人に対し基本的に送達場所において送達書類を直接手渡すこと。
補充送達 名宛人でなくとも、同居人または使用人その他の従業者であって「相当のわきまえのある者」に交付した場合。
差置送達 宛人の住所、居所において、名宛人が正当な理由なく受領を拒否するときに通常送達すべき場所に書類を差し置く場合。

公証役場の中には、特別送達を認めていないところもあります。

そのため、自分で送達の手続きをしなけばいけないこともあります。


離婚相手の住所を調べる

未払い養育費の請求は、裁判所で強制執行の申し立てをする方法が一般的です。

しかし、申し立てをする場合は、相手の住所、および勤務先の住所を把握しておく必要があります。


離婚相手の住所を調べる方法には、大きく2つの方法があります。


役所で調べる

自ら役所に出向いて相手側の住所を調べるという最もポピュラーな方法です。

離婚相手の本籍地の役所で、「戸籍の附票」を確認することで、現在の住所を調べることが出来ます。


ただし、離婚相手が既に本籍地を移している場合は、この方法を利用することが出来ません。


また、役所に住民票の開示請求をすることで、現住所を把握する方法もあります。

住民票の閲覧に関しては、原則、同一世帯の家族にのみ限られます。


しかし、未払い養育費の請求という正当な理由がある場合は、相手の住民票を確認できる場合があります。

そのため、役所に赴く際は、離婚協議書や養育費の支払履歴などといった証拠になる書類を持参することをおすすめします。


弁護士に相談する

弁護士は、職務上請求という職務上の権限により、第三者の住民票や戸籍謄本を確認することが認められています。

自力で離婚相手の住所や勤務先を調べることが出来なくても、プロである弁護士に依頼すれば、現住所を把握することが出来る場合があります。


基本的には、自分一人で調べるよりも、専門家に頼る方が確実性が高くなります。



裁判所に強制執行の申立を行う

相手(支払義務者)の住所地を管轄する裁判所に申立書と必要書類を提出して強制執行の申立てを行います。

申立費用として、申立手数料(収入印紙) 4,000円と、郵便切手代などが必要になります。


また、差押さえの対象となる債権が実際に存在するかどうか、もしくはその額等を知りたい場合は、陳述催告の申立てをすることができます。


陳述催告の申立

第三債務者に対して、差押債権の有無などにつき回答を求める申立てのこと。

万一、その債権が存在しない場合には、改めて他の財産に仮差押えをする必要性も生じます。

そのため、仮差押さえがその目的を達したかを確認するために行われます。


申立てに必要な書類

裁判所に強制執行の申立てを行う際は、以下の書類が必要になります。



養育費の支払を命じた公正証書正本

公正証書正本は、公証人が原本に基づき作成するものであり、原本と同一の効力を有します。

相手側の給与を差押えをするためには、強制執行認諾約款が記載されていることが条件になります。


強制執行認諾約款

強制執行認諾約款とは、公正証書で契約書を作成する際に、契約違反などがあった場合は直ちに強制執行に服する旨を示す条項のこと。


公正証書謄本では、差押さえをすることは出来ないため、公証役場で正本を取得して下さい。※公正証書正本の取得には手数料がかかります。


執行文

執行文とは、「債権者は、債務者に対し、この公正証書(債務名義)によって強制執行をすることができる。」という旨を表す文言です。

公正証書を作成した公証役場で、公正証書の正本に執行文付与の手続を行う必要があります。


送達証明書

送達証明書とは、公正証書正本もしくは謄本が相手方に届いていることを証明する文書のことを言います。

強制執行申し立ての際には欠かせない書類です。


戸籍謄本(全部事項証明書)等

公正証書正本に記載された当事者の住所(申立人、相手方の双方)と現在の住所が異なる場合は、公正証書正本の住所と現在の住所の関係性が分かる戸籍謄本の提出が必要です。


住民票、戸籍附票

公正証書正本に記載された当事者の住所(申立人、相手方の双方)と現在の住所が異なる場合は、公正証書正本の住所と現在の住所の関係性が分かる住民票もしくは戸籍附票の提出が必要です。


代表者事項証明書

強制執行を申し立てる際は、相手方が勤めている会社・法人の「代表者事項証明書」が必要になります。

代表者事項証明書」については、法務局に申請をして入手して下さい。


まとめ

強制執行には、不動産執行、動産執行、債権執行の3種類があります。

養育費の未払いにおける民事執行手続は、相手方の給与を差し押さえる債権執行のことを指します。


強制執行認諾約款の付いた公正証書であれば、執行文が付与された正本と送達証明書があれば強制執行をすることが出来ます。

相手方の住所地にある裁判所に、執行文が付与された公正証書正本と送達証明書などの書類を持参し、強制執行の申し立てを行って下さい。


強制執行が認められて、相手に収入がある場合は、ほとんどのケースで養育費を差し押さえることが出来ます。


養育費 ポイント
  • 強制執行は3種類(不動産執行、動産執行、債権執行)で、相手側の給料を差し押さえるのは債権執行。
  • 給料を差押える場合、給料の2分の1までが対象となる。
  • 実際に強制執行をする場合は、公正証書の正本に執行文付与の手続が必要。
  • 強制執行を行う際は、あらかじめ相手方に送達を実施する必要がある。

養育費の専門家イストワール法律事務所 養育費プロモーション