養育費の時効について
養育費の請求と時効
養育費には支払い義務があるため、離婚後であっても支給を求めることができます。
たとえ離婚した相手が自己破産をしていた場合でも、支払い義務が免除されることはありません。
養育費や慰謝料などは、破産法で非免責債権として定められています。
また、養育費は、過去にさかのぼって請求することも認められています。
離婚の協議時に「養育費はいらない」と主張していても、事情が変わった場合は相手方に請求することが出来ます。
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過去の養育費を請求しようと検討されている方にとって、最も気になるのは時効の存在ではないでしょうか?
このページでは、養育費の時効について解説しています。
時効とは
時効とは、『ある事実状態が一定の期間継続した場合に、権利の取得・喪失という法律効果を認める制度』のことです。
時効が成立すると、権利を取得する、もしくは権利を失うことになります。
つまり、それまでの養育費や借金が帳消しになるわけです。
取得時効 | 消滅時効 |
---|---|
財産関係について一定期間ある事実状態が継続している場合、それが真実の権利状態ではなくても、権利の取得を認めるという制度。 | 法律で定められた一定期間(5年もしくは10年間)、権利が行使されない場合に、その権利を消滅させる制度。 |
取得時効は、主に不動産業の分野において、消滅時効は、金銭消費貸借時(カードローンやキャッシングなど)に利用されるケースが一般的です。
養育費の時効は、5年間の短期消滅時効に該当します。
そのため、長期間、養育費の請求を行っていない場合は、時効にかかっていることがあります。
養育費の時効は取り決め内容で決まる
養育費の時効は、離婚協議時に取り決めをしたかどうかで決まります。
時効にならない場合
離婚協議時に養育費の取り決めをしていない場合は、時効は存在しません。
時効は、あくまでも取り決めに対するものです。
そもそも養育費の話し合いをしていない場合や取り決めをしていない場合は、時効になることはありません。
離婚した相手が養育費の支払を怠っている場合は、時効を気にせず請求することが可能です。
時効になる場合
離婚の協議時に、養育費の取り決めをしていた場合は、原則、5年の時効期間が定められています。
養育費の未払いから、5年が経過していた場合は、時効成立により請求できないケースがあります。
「請求できないケースがある」と書いたのは、必ずしも請求できないわけではないからです。
養育費は、定期金債権の一つですが、定期金債権の時効は、消滅時効の援用という手続をすることで成立します。
定期金債権
定期に一定の金銭その他の代替物の給付を受けることを目的とする債権。年金・恩給など。
離婚した相手が消滅時効の援用を行っていない場合は、養育費を回収出来る場合があります。
消滅時効の援用
ドラマやニュースなどに出てくる時効(刑事事件の公訴時効)は、一定期間が経過すれば、自動的に時効が成立します。
しかし、消滅時効は、一定期間が経過すれば自然に成立するという性質のものではありません。
時効を成立させるための手続きをすることで初めて効力が生じます。
時効を成立させるためには、時効援用という手続をする必要があります。
具体的には、相手方に対して内容証明郵便を送付して、意思を伝える行為のことを指します。
つまり、相手側が消滅時効の援用を主張していない場合は、時効の効力は生じないため、請求をすることで過去の養育費を手にすることが出来ることもあります。
そのため、未払いが発生してから、既に5年が経過している場合でも諦めることはありません!
ちなみに、時効は、中断をしていないことが成立要件となります。
時効は、特定の行為を行うことで中断します。この行為のことを時効の中断事由と言います。
時効の中断
時効の中断事由に該当する場合は、時効期間が中断します。(民法147条)
実際には、中断するというよりもリセットされると表現する方が正確かもしれません。
消滅時効が中断すると、それまでの時効期間の進行がストップし、振り出しに戻ります。
例えば、時効期間が4年11ヵ月経過していても、時効が中断した場合は、再びゼロからスタートするので、実質、時効期間は10年に伸びることになります。
時効の中断事由
時効の中断事由には、以下のようなものがあります。
- 請求
- 差押え・仮差押え・仮処分
- 承認
請求
請求には、裁判上の請求(民法149~152条)と裁判外の請求である催告(民法153条)の2種類があります。
具体的な内容は、下表の通りです。
裁判上の請求 (民法149条) |
民事訴訟における訴えの提起のこと。 |
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支払督促 (民法150条) |
簡易裁判所の書記官が相手方に金銭の支払いを命じる制度のこと。 |
和解および調停の申立て (民法151条) |
訴え提起前の和解の申立て、および民事調停の申立てまたは家事調停の申立てのこと。 |
破産手続参加等 (民法152条) |
破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加のこと。ただし、債権者が届出を取り下げたり、届出が却下されたりした場合には、時効中断の効果は生じない。 |
催告
催告(民法153条)とは、裁判外の請求のことを指し、時効を中断させる効力があります。
催告の方法は、特に決まっていません。口頭で主張するだけでも成立しますが、一般的には内容証明郵便によって行われます。
ただし、裁判上の請求とは違い、時効期間がリセットされることはありません。
催告による請求は、時効の進行を6ヵ月間停止させるという暫定的なものです。
そのため、時効が中断している6ヵ月以内に訴訟や支払督促などの手続きをとり、正式に時効を停止させる必要があります。
差押え・仮差押え・仮処分
差押え、仮差押え、仮処分は、時効中断事由に該当します。
差押え | 強制執行手続のひとつ。執行機関が債務者の財産の処分を禁止し、その財産を確保する行為のこと。 |
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仮差押え | 金銭債権の執行を保全するために、債務者の財産の処分に一定の制約を加える裁判所の決定のこと。 |
仮処分 | 債権者からの申立てにより、民事保全法に基づいて裁判所が決定する暫定的処置のこと。 |
差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消された時は、時効の中断の効力は生じません。(民法第154条)
承認
承認は、最も代表的な時効中断事由です。
時効の利益を受けるべき者が、時効によって権利を失う者に対して、権利の存在があること、もしくはないことを認めることを言います。
たとえば、利息の支払いや一部弁済、支払猶予願いなどが承認にあたります。
つまり、少額でも支払いを行った場合や支払いを待つように猶予の依頼をした場合は、承認をしたことになります。
そのため、時効期間は中断し、新たに時効期間がスタートします。
承認の時点から再び5年が経過しないと、消滅時効の援用をすることは出来ません。
まとめ
養育費の時効は、離婚協議時に養育費の取り決めをしている場合としていない場合で扱いが異なります。
当事者間で養育費の取り決めをしていない場合は、時効は存在しません。
時効は、養育費の取り決めをしている場合に限られています。
また、時効は自然に成立するわけではなく、消滅時効の援用という手続をすることではじめて成立します。
消滅時効の援用は、未払いが発生した日から5年間が経過した後に、内容証明郵便を利用して相手方に意思表示をすることを指します。
離婚をした相手が消滅時効の援用を行っていない場合は、時効が成立していないため、過去にさかのぼって養育費を請求することが出来ます。
ただし、裁判所では過去にさかのぼって養育費を請求することを認めないケースが多いため、必ずしも過去分の養育費を回収できるとは限りません。
また、養育費の未払いが続いている場合は、請求、差押え・仮差押え・仮処分、承認のいずれかの手続をとることで時効の中断をすることが出来ます。
時効が成立する前に、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
- 離婚協議時に養育費の取り決めをしていない場合は、時効はない。
- 養育費の未払いの消滅時効は5年。
- 消滅時効の援用をすることで時効が成立する。
- 時効の中断がある場合は、時効期間はストップし、新たな時効がスタートする。